看護事業立ち上げ支援
訪問看護事業とは
訪問看護は、看護師等が利用者の自宅を訪問して、病状の観察、診察の補助(医療処置やバイタルサイン測定等)、療養上の世話(清潔や排泄の支援等)、機能訓練を行なうサービスです。利用に際し、医師の指示が必要です。
事業者には、病院・診療所が訪問看護を実施するものと、独立した形態である訪問看護ステーションが実施するものの2種類があります。
利用者については病院・診療所が実施する場合、その医療機関で受診している患者に限定されますが、訪問看護ステーションの場合には、主治医は限定されません。
サービスは主治医との密接な連携により、保健師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が行なうことができます。
利用者が要介護認定・要支援認定を受けている場合は介護保険を算定しますが、急性増悪期等、末期の悪性腫瘍その他厚生労働大臣が定める疾病等の患者に対する訪問看護は医療保険から給付されます。
訪問看護ステーションを開設するための手続き
訪問看護ステーションを開設するためには、法人格のある団体が申請をして、訪問看護を行う事業者として指定を受けます。この指定には2種類あります。都道府県知事(または指定都市・中核市市長)による居宅サービス事業者および介護予防サービス事業者としての指定(介護保険法)と、地方厚生(支)局長による訪問看護事業者としての指定(健康保険法)です。
介護保険法の居宅サービス事業者等としての指定を受けると、みなし規定により健康保険法の訪問看護事業者としての指定を受けられます。介護保険法の指定のみを受けたい場合は、「指定訪問看護事業を行なわない旨の申請書(様式第2)」を地方厚生(支)局長へ提出します。
申請から指定までの標準処理期間は約1ヶ月程度を要します。開設後は6年ごとに指定の更新を受けなければ失効します。また、同一法人が複数の訪問看護事業所を運営する場合は、それぞれの事業所ごとに指定申請をする必要があります。
法人格のある団体とはどのような種類の法人組織がありますか?各法人の特徴・メリット・デメリット
株式会社、合同会社などの営利法人、医療法人、社会福祉法人、NPO法人などがあります。以下に身近で設立数が多い代表的な法人の種類の比較を挙げます。たとえば、設立する期間を比較してみますと、株式会社は、2~3週間程度で設立することが可能ですが、NPO法人設立には平均で6ヶ月ぐらい要します。NPO法人は、作成する書類の量も多く認可庁の監督も受けますが、税制面の優遇もあり、寄付金や公的研究費を受けやすく、自治体からの委託にも有利であるというメリットがあります。
NPO法人(特定非営利活動法人) | 一般社団法人 | 株式会社 | |
活動内容の制限 | 特定非営利活動促進法の20分野 | 制限なし | 制限なし |
活動利益の対象 |
不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与 することが求められる |
グループに属する者のみの利益の増進に 寄与する目的でも可 | 制限なし |
情報公開 | 所轄庁に事業報告→情報公開義務有 | 情報公開義務なし | 公告義務あり |
設立資産 | 不要 | 不要 | 1円以上 |
設立手続き | 所轄庁の認証後、設立登記 | 公証役場での定款認証・設立登記のみ | 公証役場での定款認証・設立登記のみ |
設立者 | 社員10人以上 | 社員2人以上 | 発起人1人以上 |
役員 | 理事3人以上・監事1人以上 | 理事1人以上【非営利の場合、別途規定】 | 取締役1人以上 |
理事の任期 | 原則2年(伸長不可) | 原則2年(伸長不可) | 任意 |
利益の分配 | 不可 | 不可 | 可 |
税制 |
税制面の優遇あり ・登録免許税(登記)の免除 ・法人税・法人県民税・市民税の優遇 |
税制面の優遇を適用させる場合、非営利性の徹底などの要件あり。 普通の運営の場合優遇は受けれず、株式会社に近い税制。 | |
所轄庁・監督 | 都道府県または政令指定都市 | なし | なし |
設立法定費用 | なし | 約112,000円 | 約210,000円 |
設立期間 | 5~6か月前後 | 2~3週間 | 2~3週間 |
社会的信用 | 高 | 中 | 低 |
指定を受けるための要件
指定を受けるには、次の要件を満たしていることが必要です。
①法人であること・・・法人格を有する団体であること
②人員基準を満たしていること・・・保健師または看護師で常勤・専従の管理者を置くこと、また、管理者は、適切な指定訪問看護を行うために必要な知識、技能を有する者。
③看護職員・・・*常勤換算で2.5名以上確保すること*常勤換算方法とは、従業者の勤務延時間数を常勤従業者が勤務すべき時間数で割る算出方法
④設備・運営基準に従い適切な運営ができること
設備および備品等の基準を満たすこと(事務室・相談室・事務机・鍵付書庫、衛生設備など、基準内容は自治体により異なる部分もあり)
事業内容および手続きの説明および同意書等に関する基準を満たすこと
⑤介護保険の出張所(健康保険の従たる事業所)も含めた事業所ごとに指定申請を行うこと
指定申請時に作成・準備する書類
指定申請(介護保険法)に必要な書類は、以下のとおりです。
内 容 | |
指定申請先 | 都道府県知事(または指定都市・中核市市長) |
指定名称 | 指定居宅サービス事業者(訪問看護) 指定介護予防サービス事業者(介護予防訪問看護) |
申請書 | ①指定訪問看護事業指定申請書(第1号様式) ②訪問看護・介護予防訪問看護事業所の指定に係る記載事項(付表3-1) ③当該事業所の所在地以外の場所で、当該申請に係る事業の一部を行う時の名称・所在地(付表3-2) |
添付書類 | ④申請者の定款・寄付行為等の写しおよび登記簿謄本原本または条例等の写し ⑤従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表(参考様式1) ⑥管理者の経歴書 ⑦管理者免許証の写し ⑧事業所の平面図(参考様式3) ⑨運営規程 ⑩利用者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要(参考様式6) ⑪衛生管理上の処置について ⑫当該申請に係る資産の状況(資産の目録・事業計画書など) ⑬介護保険法第70条第2項各号の規定に該当しない旨の誓約書(参考様式9-1) ⑭介護保険法第115条第2項各号の規定に該当しない旨の誓約書(参考様式9-3) ⑮役員の氏名・生年月日および住所(参考様式9-2) |
訪問看護ステーションの計画から開設までのスケジュール概要
法人が既存しているか、新規設立する場合の法人の種類、また開設する場所の都道府県により、開設するまでの期間、スケジュールは少々異なりますが、基本的には以下のような流れを前提に進めると計画がスムーズに運びます。
(東京都の場合)
3ヶ月~6ヶ月前 |
4/1~4/30 (前々月) |
5/1~5/31 (前月) |
6/1 | ||
事業所準備 |
看護職員募集 開設資金の確保 開業場所・物件選定 |
必要物品の調達 | PR準備 | 開業 | |
申請 |
事業計画書の策定 法人設立 銀行口座の開設 法人設立後の諸官庁への届出 |
申請書作成 必要書類準備 都道府県等と事前協議 |
新規申請受付期間 4/30申請〆切 |
審査期間・ 指定前実地調査 | 指定 |
研修 | 指定前研修申込期間 |
指定前研修 毎月15日前後に開催予定 |
訪問看護ステーションを開設後の営業活動
訪問看護ステーションが介護保険法の居宅サービス事業者としての指定を受けますと、都道府県知事は、この訪問看護ステーションに関する情報を作成し市町村に送付します。この情報を基に、被保険者はサービス事業者を選択し、居宅支援事業者はケアプランを作成します。また、独立行政法人福祉医療機構の情報ネットワークシステム(WAM NET)による指定事業者情報の提供を行います。このシステムは、都道府県の指定事業者管理台帳システムに連動し、インターネットによって、誰もが訪問看護ステーションに関する情報を得ることができます。
全事業所がこのシステムで閲覧できますが、選ばれる訪問看護ステーションを目指すには、他と差別化を図るためのPR活動が重要です。PR内容としては、営業日と営業時間・サービス内容・利用料の内容・ステーションの名称・住所・電話番号・勤務する看護師の氏名・スタッフ数・24時間対応等の情報、そして一番重要なのが、その事業所のモットー・経営方針・特徴を明示することです。また、訪問看護サービスと介護サービスとの違いの説明や、具体的な訪問看護サービスの内容なども示した方がわかりやすいです。
広告・宣伝の手段ですが、看板、バスなど公共交通機関への広告掲載、折り込みチラシ、自動車・自転車にステーション名称や連絡先を入れる方法などがあります。また、医療機関・診療所・施設・居宅介護支援事業所・地域包括支援センター・保健福祉事務所・介護保険課担当者・民生委員などに挨拶回りするとともにパンフレットを作成し、置かせてもらいます。地域の行事、催し物や集会などにも積極的に参加して、訪問看護ステーションを身近な存在として印象づけることもだいじな宣伝活動です。開業時には、オープニングセレモニーを催して、地域住民、施設関係者、自治体関係者、関連企業などを招待して、多くの方々にステーションの存在を知ってもらうのもよい機会となります。
開設費用に関する融資制度など
開業時に必要な費用は、法人を新たに設立する場合は、法人設立費用、事務所を賃借する場合は、敷金・保証金、看護師の求人を出す場合は広告費、他に事務所備品費などがあります。事業所を自宅と併設することも可能ですが自宅建物に事業所専用の出入り口が設けられていることを条件にしている自治体もあります。事業を開始してからの費用は、主に人件費と家賃、諸経費が最低限、発生します。開業後、すぐに利用者を数十人も確保できるということは考えにくく、毎月数名ずつ増えていくというのが現実です。つまり、事業が軌道に乗るまでは、半年間ぐらいは赤字が続く覚悟が必要です。また、国民健康保険団体連合会への請求によって、収入を得ますが、レセプト提出から2ヶ月後に入金されます。そのため、開業当初の2ヶ月は、実際に収入がないことを見込んでおく必要があります。
そこで、開業当初の資金確保のため、開業資金の調達方法について、いくつかご紹介します。(雇用保険による助成金は載せておりませんので、別途社会保険労務士さんへお問い合わせください)
Ⅰ.日本政策金融公庫の創業融資 ~日本政策金融公庫ホームページ抜粋~
<女性、若者/シニア起業家支援資金の概要>
ご利用いただける方 | 女性または35歳未満か55歳以上の方であって、新たに事業を始める方や事業開始後おおむね7年以内の方 | |
資金の使いみち | 新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする資金 | |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) | |
利率(年) (H29/10/12現在) | 運転資金及び設備資金(土地取得資金を除きます。)1.86~2.45% 技術・ノウハウ等に新規性がみられる方の運転資金及び設備資金(土地取得資金を除きます。)1.61%~2.20% 土地取得資金 2.26~2.85% *新創業融資制度(無担保・無保証人) | |
ご返済期間 | 設備資金 | 20年以内<うち措置期間2年以内> |
運転資金 | 7年以内<うち措置期間2年以内> | |
担保・保証人 | お客さまのご希望を伺いながらご相談させていただきます。 |
(注)一定の要件を満たす必要があります。詳しくは、支店の窓口までお問い合わせください。
※お使いみち、ご返済期間、担保の有無などによって異なる利率が適用されます。
Ⅱ.独立行政法人福祉医療機構(WAM)の融資 ~独立行政法人福祉医療機構ホームページ抜粋~
<指定訪問看護事業に係る設置・整備資金>
指定訪問看護事業を開設等するにあたって、必要な資金(新設及び増改築、機械購入資金を含む)をご融資します。
融資額 | 500万円以内(だたし、所要資金の80%以内) | ||
償還期間(据置期間) | 建築または購入、機械購入 | 7年以内(1年以内) | |
利率 | 賃借 | 敷金・保証金等 | 7年以内(1年以内) |
権利金 | 7年以内(1年以内) | ||
*機構とのご融資契約時点での金利を適用します。 *完全固定金利制度のみです。 *直近の金利 H29.10.12現在 0.71% | |||
その他 | ※その他のご融資の条件あり |
<長期運転資金>
指定訪問看護事業の(1)新設に伴い新築資金を利用された場合(2)看護師その他従事者の増員に伴い必要な場合のみご利用できます。
融資額 | 500万円(ただし、所要資金の80%以内) |
償還期間(据置期間) | 1年以上3年以内(6か月以内) |
利率 | *機構とのご融資契約時点での金利を適用します。 *直近の金利 H29.10.12現在0.81% |
その他 | ※その他のご融資の条件あり |
Ⅲ.介護報酬ファクタリングサービス
介護報酬ファクタリングサービスとは、訪問看護事業所が国民健康保険団体連合会(国保連)に対して請求する介護報酬(債権)をサービス提供会社に債権譲渡し、早期資金化するものです。手数料は約5%〜25%程度で、サービス提供会社によって異なりますが、銀行融資と比較すると割高です。ファクタリングのメリットとしては、借入ではないので金利が発生せず、返済義務もありません。また、銀行融資より、かなり審査が早いので、数日で現金化することができます。
上記の資金調達方法は、Ⅲ.を除き、返済があるものがほとんどですので、まずは精度の高い事業計画書を作成し、余裕のある返済の見通しを立てることが重要です。
また東京都などでは、指定(開設)後1年以内に新たに事務職員を雇用する場合で、諸条件を満たせば、事務職員の給与費や交通費を補助する制度もあります。(上限額あり)